近年の放射線腫瘍学は「根拠に基づく」治療が基本となり,多くの文献と情報が提供されている.また放射線照射技術の発達も目覚ましく,強度変調放射線治療(IMRT)や画像誘導放射線治療(IGRT)などを使いこなす必要がある.このように目覚ましく変化してきた放射線治療の現場で忙しく患者のケアを行っている研修医や臨床医にとって,臨床で必要となる情報量は膨大となっている.また,放射線治療計画においては,経験が重視されていた「技」の時代から「根拠に基づく論理的思考」による時代となってきた.このような状況の変化の中で,治療計画や放射線治療の過程において必要な情報がすぐに参照できるポケットサイズのハンドブックが必要となっている.
 本書はDepartment of Radiation Oncology, Cleveland Clinicの長年のレジデントの研修過程の積み上げや豊富な臨床体験を「根拠に基づく」治療としてまとめたハンドブックである.以下にその章立てを示す.

 

1.
物理の基本原則   
2.
シミュレーションおよび治療に関する技術
3.
中枢神経系の放射線治療
4.
頭頚部癌の放射線治療
5.
乳癌の放射線治療
6.
胸部の放射線治療
7.
消化管癌(食道癌を除く)の放射線治療
8.
泌尿器の放射線治療
9.
婦人科の放射線治療
10.
リンパ腫と骨髄腫の放射線治療
11.
軟部組織肉腫の放射線治療
12.
小児の放射線治療
13.
緩和放射線治療

 1章では用語の説明と,国際放射線単位測定委員会(ICRU)による報告書No.50,62の標的体積,線量体積ヒストグラム(DVH)の評価方法,ICRU基準点,マージン,ビーム特性などについて簡潔にまとまられている.また,小線源治療の治療計画も含まれており,ICRU38の評価方法がまとめられている.
 2章では,最新の位置決めおよび固定技術が写真付きで解説され,シミュレーション技術やIGRTに関しても述べられている.
 3章からが身体の各部位・系統別に区分した治療計画の基本が述べられ,各章は冒頭で治療計画を遂行する一連のステップごとに必要な情報がまとめられている.まず「基本原則」としてその章で述べられる領域での放射線治療の役割が記載され,共通となる「位置決め,固定,シミュレーション」,「標的体積と関心領域」,「治療計画方法と選択肢」,「危険臓器」,「技術的因子」について記載し,続いて臓器別,腫瘍別の各論が端的ながらも明確な数値と共に詳しく解説されている.GTVの取得はどのような画像を用いてどの範囲の信号変化を領域とするのか,CTV,PTVなどの体積ではどの程度(cm)のマージンで取得するのかが示されている.初回照射と追加照射時の体積取得方法の違いや具体的な線量分割も記載されており,まさに治療計画で必要な情報がこの1冊に詰まっている.
 本書の目的は,指示・規定を目指しているものではなく,また,特定の治療法や器具を推奨しているものでもない.あくまでも「根拠に基づく治療」に有用な情報の記述であると著者は述べている.臨床病期はAJCC Cancer Staging Handbook 第6版のTNM分類を採用し,RTOGのプロトコルを参考として現時点で「よい,また安全である」と考えられる事項に限定して記載されている.したがって,部分的には日本国内の状況と多少食い違う部分も見受けられるが,一方で例えば乳房温存療法では腹臥位法が解説されていたり,NSABP B-39/RTOG 0413プロトコルに準じたバルーンアプリケータを用いた小線源治療による加速部分乳房照射法が含まれていたりするなど,国内ではあまり実施されていない治療方法も記載されており,世界(米国)の標準治療が理解できる.
 本書は放射線腫瘍(治療)医や研修医のみならず,診療放射線技師,医学物理士,看護師など全ての職種にとって治療計画の現場ですぐに役立つことと思われる.統一した情報を必要な時にその場で確認しながら業務が行えることは,放射線治療の安全と質の維持においてとても重要である.本書の内容に対して各施設のプロトコルや運用に合わせた修正を行い,各スタッフが白衣のポケットに本書を必携して活用していただければ幸いである.
 最後に,本書は大阪大学大学院医学系研究科放射線治療学講座の小川和彦教授と堺市立病院機構市立堺病院放射線治療科の池田 恢部長により監訳され,大阪大学や関連した病院などのスタッフの協力により翻訳されている.

(名古屋大学大学院医学系研究科 医療技術学専攻医用量子科学講座 小口 宏)