Q1 放射線療法とはどのような治療法ですか

 がんの治療の主な治療法は手術による病変除去(外科療法)、放射線療法、抗がん剤による全身療法(化学療法)であり、これらは三大療法と言われています。また、これらの治療は単独で行われると共に、集学的治療として併用する場合もあります。
 放射線療法には体外から放射線を照射する外部照射という方法と、放射線を放出する小さな金属(小線源)を腫瘍付近に入れて体の中から放射線を照射する小線源治療と言われる方法があります。
 放射線療法のうち、全国で一般的に行われている方法は外部照射です。外部照射は、毎日一定の線量の放射線をあてる手順を3-8週間前後(一般的に週5日間)続けて実施します。
 放射線療法は局所療法であり、外科療法のように傷跡が残らず、機能と形態の温存が可能です。多くのがん患者が救命できるようになった現在、命を長らえるだけでなく社会復帰の可能なQOL(quality of life)の高い治療法への社会的要請が強まっています。抗がん剤と放射線療法を組み合わせる化学放射線療法は多くのがんで試みられ、頭頸部腫瘍、肺がん、食道がん、膵がん、大腸がん、肛門がん、膀胱がん、子宮頸がんなど多くのがんで臨床試験が行われ、化学放射線療法が放射線治療単独よりも良好な治療成績を示され、化学放射線療法が標準的な照射法として認められています。

 

Q2 放射線治療を受けるための装置について教えてください

 放射線治療には、身体の外から放射線を照射する外部照射と、体の内側から照射する内部照射、放射性物質を含む薬剤を服用したり注射したりするRI治療があります。
 外部照射では、体の奥深くの病気に対して効率よくX線や電子線を照射するために、医療用電子直線加速器(リニアック)(右上写真)が用いられます。わが国では現在900台以上のリニアックが稼働しており、放射線治療の適応となった患者さんの8割以上の方がこの装置で治療を受けています。最近のリニアックは、CTやX線の写真を頼りに、正確に病気の位置にねらいを定める装置や、放射線を病気の形に合わせ、正常な部分を避けるための多段絞り装置(マルチリーフコリメータ:MLC、右中写真)などが備わっていて、正確かつ患者さんの負担が少ない治療を行うための工夫がされています。
 内部照射は、金属カプセルなどに放射性物質を封入した「線源」を、体の中や組織に留めておいて、線源から発生するγ線等を利用して放射線の照射を行います。この治療は100年以上の歴史があり、医師が専用の管や針を用いて直接患者さんの体の中に線源を配置する方法が昔からとられてきました。現在は遠隔後充填式装置(リモートアフターローディング装置:RALS、右下写真)が多く使用されています。これは、線源が入る「管」を病気の近くに計画的に配置しておき、遠隔操作によって管の中の指定された位置に、数mm大の線源を送り込んで照射を行う装置です。非常に強い線源を安全に使用できるので、無用な被ばくがなく、正確な位置で短時間に放射線を照射することができます。現在わが国では100台以上のRALS装置が稼働しています。
shimin_tiryou_q2-1
shimin_tiryou_q2-2
shimin_tiryou_q2-3

 

Q3 定位的放射線治療とはどんな治療ですか

 定位放射線治療は数mmから3cm程度の比較的小さな病巣に対して多方向から放射線を集中させる治療法で、ピンポイント照射と呼ばれることもあります。病巣だけに短い期間で比較的多めの放射線を照射することで病巣の治療効果を高めることができます。また、病巣だけに放射線を集中できるので、周りの正常な組織の障害を抑えることもできます。定位放射線治療(Stereotactic Radiotherapy:SRT)が数日に分けて治療が行われるのに対して、1回で治療を完了する定位放射線治療は定位放射線手術(Stereotactic Radiosurgery:SRS)と呼んで区別しています。主な治療の対象は脳腫瘍でしたが、最近では頭頚部や早期肺がんなどの体幹部の治療にも応用されています。この治療法には高い照射の精度が求められるため、我々が行っている治療装置の日常の精度管理が重要になります。

 

Q4 IMRT(強度変調放射線治療)とはどんな治療ですか

 IMRT(強度変調放射線治療)は高精度に放射線治療を行うための照射方法の一つです。IMRTは、放射線を照射する範囲の形状を様々に変化させることで、体内の正常組織への副作用を低減しながら、腫瘍等の治療したい部分に放射線を集中させ、治療効果を上げることができます。IMRTには高度な技術を要するため、実施できる施設が限られていますが、IMRT実施施設では、専門スタッフにより、適切に治療や装置の管理が行われていますので、安心して受けていただく事ができます。また、この治療は病気の進行度等により、保険診療として受けることが出来るか否かが決まっていますので、詳しくは担当の医師にご相談ください。

shimin_tiryou_q4-1    shimin_tiryou_q4-2
通常照射(左)とIMRT(右)   矢印の直腸の線量低減が見られる(IMRT)

 

Q5 陽子線治療や重粒子線治療とはどんな治療ですか

 陽子線治療は、陽子を加速装置(シンクロトロンやサイクロトロン)で高速に加速させて照射を行います。重粒子線(炭素イオン線)も同様の加速装置で加速します。これら粒子線はX線とは違い、体内の中をある程度進んだ後に、急激に消滅するという性質(消滅する位置に高いエネルギーを与える事を意味する。ブラッグピークと呼ばれる)を持っています。従って、がんがある部分に放射線を集中させ、それより深い場所には放射線は照射されることがないのです。欧米では、成長不全を可能な限り防ぐためにも、小児放射線治療の第一選択に陽子線治療が選ばれます。陽子線と重粒子線の違いは、ある一定の物理線量に対して生物学的な効果が異なり、X線が1.0に対して陽子線は1.1倍、重粒子線(炭素イオン線)は約3倍の効果と言われていますが、がんのある場所、がん細胞の性質、照射回数などにより治療法は異なります。現在(2019年)、治療費について陽子線は小児腫瘍(限局性の固形悪性腫瘍に限る)、重粒子線は手術による根治的な治療法が困難である限局性の骨軟部腫瘍に対してのみ保険が適用され、その他の部位は保健適応外であり先進医療や自由診療でおこなわれているのが現状です。