放射線被ばくと聞くと、恐ろしいイメージを持つ人がいるかもしれません。たしかに現在、放射線に被ばくする とがんができる過程の一部で放射線が手助けする可能性があると考えられており、実際に放射線に被ばくするとがんになりやすくなることは、マウス(実験用ハ ツカネズミ)を用いた実験や、広島・長崎の原爆被ばく者の健康調査の結果からも明らかになっています。しかし、放射線による人体への影響は、被ばく量の大 小によって変わってきます。

われわれの普段の生活の中で浴びる放射線の うち特に多いのは、宇宙や大地といった自然からの放射線を除けば医療による放射線です。医療放射線による被ばく量は、たとえば胸部エックス線撮影では 0.06ミリシーベルト、エックス線CT撮影では5~30ミリシーベルトと検査の種類によりかなり異なるのですが、がんリスクという観点からみるといずれ も少量であり、それに伴うがんのリスクの増加は科学的には証明されていません。また、放射線を受けた体の中にその放射線や放射能が残るということもありえ ません(核医学検査で放射能を持つ薬を使った場合は、しばらく体内に薬が残りますが、数時間から数日で無くなります)。むしろ、それよりも検診や検査に よってがんなどの病気が発見されて、適切に治療されることによるメリットの方が圧倒的に大きいといえます。一方、放射線治療で用いる放射線は、がん組織を 殺すことが目的ですから、照射部位には非常に多くの放射線を当てることになります。その結果、がんの周囲の正常組織に影響が生じて、いわゆるがん治療の副 作用が現れることがありますが、それよりもがんが治ることのメリットの方がずっと大きいので、このような照射が行われます。近年では、カテーテルという専 用の管を用いた血管内治療も頻繁に行われておりますが、その治療においても放射線が用いられています。残念ながら、血管内治療で放射線を多く受けたことに よる脱毛や皮膚潰瘍といった副作用が報告されていますが、これらの副作用はある一定量以上の被ばく量に達すると起こることが分かっており、われわれは可能 な限りその被ばく量に達しないように治療を行うことを心がけています。

現代の医療はもはや放射線なしでは成り立ちませんが、診断や治療で用いられる放射線は、それによるリスクよりメリットの方が上回る場合にのみ用いることを 原則としています。皆様におかれましては、被ばくすることを過度に怖がることなく、安心して診療を受けていただきたいと思います。