近年,学術研究,開発,臨床応用ならびに教育などに取り組むにあたって,法令・規則を遵守し公開の原則のもとに,自らの良心と良識に則って責任ある行動と社会からの信頼が求められています.そのために生命と人権の尊重,安全の確保は私たちの必要最小限の責務です.
日本放射線技術学会においても論文投稿審査規定 第5条(原稿)5に「投稿論文は基礎研究,応用研究のいずれにおいても生命倫理に十分な配慮がなされたもの.また,個人情報の保護のために必要な処置を講じたものとする.」と記しています.また,論文投稿の手引き 4.投稿論文の取り扱いについて 4-4.生命倫理への配慮および個人情報の保護の項目にも「論文の内容は,生命倫理に十分配慮なされていなければならない.内容によっては,研究機関に設置されている倫理審査委員会の承認を得た研究であることを本文中に明記する.また,臨床画像など個人の医療情報を扱う研究の場合には,ID,氏名,生年月日,住所などを消去して個人を特定できないようにする.」と記しています.
しかしながら,最近の本学会の編集委員会に投稿される論文には,研究協力者に対する人権の保護をはじめ生命倫理を満たしていないものがあります.今一度,学術・研究に対する倫理について真摯に考えていただきたく思います.下記に該当する研究は,施設の倫理委員会もしくは第三者機関の承認または施設長の承諾が必要ですので,論文内にその旨を記してください.

 

1) 被検者に診療以外の余分なX線(電磁波)を照射する試験
 社会的意義と医学的価値を明確にして被検者に文書にて承諾を得る必要があります.
2) ボランティアを用いた臨床試験
 ボランティアの人権と自由意思が尊重されなければなりません.
3) 患者の臨床データの一部を使用した研究
 患者の画像情報がすでに診療に使われていたとしても,その画像データの個人情報をどのように取り扱ったのかを明確にする必要があります.
a. 連結可能匿名化をした場合:連結が可能なデータをどこに保管しているか.また,研究終了後にそのデータをどのように処理するのかを明記する.
b. 連結不可能匿名化をした場合:どのような方法で匿名化を行ったかを明記する.
4) 観察者実験を含む研究
 観察者実験に参加した観察者の実験結果は,たとえ観察者名が匿名であっても観察者の個人情報(読影能力や経験年数など)が研究データに含まれる場合がありますので,論文などに観察者実験の結果を公開することに関して,事前に観察者から承諾書を得る必要があります.
[論文内への記載が曖昧な場合は承認書類を提出していただきます.]
 本学会では,これまでに学会員への生命倫理に関する意識の啓発を目的として,医療倫理に関する教育講座を掲載してきました.倫理規定の遵守に関して不明な点がある場合は,以下の文献を参考にしてください.
 また,日本における臨床研究に関する倫理指針が厚生労働省からも公開されています.


参考文献
1) 砂屋敷 忠.教育講座:医療倫理入門「放射線技術研究と倫理」.日放技学誌,60(5):646-653,2004.
2) 吉川ひろみ.教育講座:医療倫理入門「インフォームドコンセントとチーム医療」.日放技学誌,60(6):772-776,2004.
3) 岡本 珠代.教育講座:医療倫理入門「倫理原理と倫理綱領」.日放技学誌,60(7):896-900,2004.
4) 横藤田 誠.教育講座:医療倫理入門「医療における法規制と倫理」.日放技学誌,60(8):1045-1049,2004.
5) 金場 敏憲.教育講座:医療倫理入門「診療放射線技術教育での倫理」.日放技学誌,60(9):1273-1280,2004.
6) 青山  裕.教育講座:医療倫理入門「臨床現場で遭遇する倫理的諸問題」.日放技学誌,60(10):1369-1373,2004.
7) 砂屋敷 忠.教育講座:医療倫理入門「放射線技術と倫理」.日放技学誌,60(11):1477-1482,2004.
8) 小笠原克彦.教育講座:研究方法論「第2回 臨床研究と研究倫理」.日放技学誌,66(6):668-672,2010.
編集委員会では,1.投稿論文数と編集作業の進捗状況 2.技術学会雑誌の企画記事の発行予定 3.論文特集号の案内 4.その他,お知らせ を学会ホームページで情報を提供しています.
ご覧ください.