2021 年度総会では,事業計画として下記のことが記載された.

「放射線技術学は,医学,工学,物理学,数学などの多くの境界領域の学問と融合して発展を続けている.一方,第3次AI(人工知能)ブームの到来によりAIの活用による放射線技術学の発展が近い将来大いに期待できる.医学,医学物理学や理工学等の幅広い分野での会員の連携による新しい放射線技術学の創成を通して社会に貢献する学会となるよう会務運営に努めたい」

 

本学会が社会に貢献する学会となるためには,学術団体としての基盤を強化し,新しい時代に向けた長期的な展望に基づく運営計画が必要であると考える.特に,昨年来の新型コロナウイルスによる感染拡大防止の策として講じたリモート開催等の新たな学会事業に関して,早急にシステムを構築する必要があると考える.以下に長期的な運営計画を考える上で,本学会が取り組むべき課題について述べる.

 

1)本学会が目指すもの

本学会の第一の目的は,定款にも書かれているように,「放射線技術学に関する研究発表,知識の交換ならびに関連団体との連絡提携を図り,学術の進歩発展に寄与すること」であるが,その先にあるのは, 本学会の成果を国民へ還元することである.すぐれた研究論文を発表し,その新しい発見が,医療や社会生活における被ばくの低減や,様々な検査における診断能の向上と効率化,検査を受ける患者のベネフィットにつながってこそ,本学会が学術団体として世の中に認められると考える.

 

2)会員にとって開かれた理事会

本学会の課題の一つは,代表理事・運営企画会議から理事会,委員会,専門部会,支部,代議員,会員と構成されている大きなピラミッドの各役割間のコミュニケーションが十分に取れていないことであると考える.会員にとって開かれた理事会となることを目指し,会員や代議員の意見が反映されるための環境を整備し,多くの会員が学会全体としての方向性を共有することができる体制の構築を目指す

 

3)新しい生活における教育的事業の充実

2020年度は,新型コロナウイルスによる感染拡大防止を目的として,全国各地でウェビナーの開催が計画・実施された.ウェビナーの主催者の主体は,専門部会から地方支部に移行しつつあり,そのウェビナーの参加者は,地域を超えて全国に拡がっている.新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前のような,毎週のように開催される勉強会やセミナーへの参加は減少し,多くの会員が自由な時間に参加できるセミナーの利点を認識し始めている.今後は,専門部会や支部の研究会が開催するセミナーや勉強会を対面とリモート,および分野別に整理し,重複を避けることで,多くの会員 が効率よく学び,研究する環境を学会として提供することが必要である.

 

4)他団体との協働

本学会が将来的に高いレベルの学術団体として世の中に認められるためには,他の関係団体との協働作業が不可欠である.しかし,会員目線からすると,日本診療放射線技師会や日本医学物理学会と本学会の間には重複する部分が多く見受けられるそれぞれの学会・団体の利益は二の次として,会員のほとんどを占める診療放射線技師の立場になって,その利益を第一に考えることを本学会から二つの団体に提案し,3団体にとって効率的な会の運営について協議する.また,放射線医学の発展のためには医師の団体との協働作業も不可欠であるので,日本医学放射線学会や日本放射線科専門医会との話し合いを再開し,本学会への助言を受ける.

また,今後は多様化の時代が予想されるため,産業界との連携も今後は視野に入れていく

 

5)海外諸国との関係について

中国,韓国,台湾,タイといった東南アジア諸国との学術協定については,これまで通りに継続して進めるが,新型コロナウイルスの影響により,相互交流の場が失われているのが現状である.しかし,このことを良い機会として,今後は,総会・秋季学術大会や相手国での学術大会開催時の双方の過剰な接待を減らし,純粋に学術的な交流の推進への転換を図る.また,日本と同様に診療放射線技師の研究活動が盛んと言われているオーストラリアにおける放射線技術研究の現状を調査し,訪豪が可能になり次第,オーストラリア国内で開催されるそれらの学術大会を視察することを検討する.

 

6)専門部会への要望

本学会には7つの専門部会が存在するが,会員の専門部会への入会率は依然として高くなく,半数以上の会員が専門部会に所属していない.核医学,CT,MR,医療情報といった分野では,本学会の専門部会と方向性が異なる専門学会や認定機構が国内に存在するため,専門性を求める会員は,他学会への参加を選択する場合がある.本学会の専門部会が,他の学会等と学問の方向性に関して議論を行うことは大賛成であるが,お互いを排他しあうべきではないと考える.専門部会は積極的にこれらの他学会と話し合いの場を持ち,相互の学術大会における共催企画を実施することで,国内の研究者が同じ専門分野の中で分離することのないよう検討を要望する.さらに,医学系の専門体系への対応を頭に入れ,必要に応じて臓器または疾患を軸とした部門横断的な組織編成についても検討を進めてもらいたい

 

7)役員の事務業務軽減

次の世代の役員の育成を考えるためには,理事や委員長の業務の軽減について取り組む必要がある. 2020年度までに,従来から用いられている様々な提出書類の簡略化とオンラインによる入力を実現するSpaJSRT(Smart paper work for JSRT)が開発され,運用が開始されている.現時点では,SpaJSRTは理事会のみへの対応であるが,2021年中に委員会や研究班の運用を開始し,併せて事務局員の負担軽減により,将来的な会員数低減に対応した事務局員数の低減に備える.

 

8)理事会や委員会の運営にも Science を

本学会は学術団体である.理事会に提出される議案や報告は個人の主観に依存したものではなく,学会運営に関するデータを科学的に解析した資料が提供される必要がある.RacNe の稼働が始まってからすでに6年となり,多くのデータが蓄積され,データが解析されるのを待ち望んでいる.今後は,データの解析結果に基づいて,学会運営を計画することを念頭に置き,特に,性別・年代別・地域別の会員数や,演題投稿数の把握,学会を入退会する会員の情報分析が,長期的な学会運営のために必要である.

 

9)支部理事・支部長および専門部会委員・専門部会長の選出方法について

これまで,支部の人事においては,多くの支部で前支部長の指名による次期支部長候補の推薦の後に,支部長選挙が実施され,そこで選出された支部長が代表理事に推薦されている.また,その支部の理事は支部長の指名により決まっている場合が多い.しかしながら,本部の代表理事選出の場合と同様に,支部においても,まず支部理事を支部会員の投票により決定した後,支部理事の合意(または投票)により,支部長を決定する方法がより民主的であると考える.このことは,専門部会でも同様であり,専門部会委員や専門部会長の選出において,会員の合意が得られるような方法が用いられることが望ましい.これらの選出方法の変更については,一朝一夕には実現することは困難であると考えるが,近い将来での実現を目指して,具体的な検討を始めることを希望する.